HTC VIVE Eagle スマート グラス: 新たな挑戦者がアリーナに登場

スマートグラス市場が、さらに興味深い展開を見せています。2025年8月14日、HTCは正式に「ヴィヴ・イーグル(VIVE Eagle)」スマートグラスを発表し、VR大手として初めてディスプレイ非搭載型のスマートアイウェア市場に参入しました。レイバン(Ray-Ban)やオークリー(Oakley)との提携で注目を集めるメタ(Meta)とは異なり、HTCは独自のアプローチを採用しています。彼らが掲げるのは、「日常生活に溶け込む目立たないテクノロジー」、そしてプライバシー重視と複数AI統合という新しい方向性です。
VRヘッドセットや企業向けソリューションに注力してきたHTCが、一般消費者向けのスマートグラス市場に進出したことは、同社がウェアラブルテクノロジーの未来を「大型ヘッドセットではなく、毎日身につけたくなる眼鏡」に見出していることを示しています。「ヴィヴ・イーグル(VIVE Eagle)」は、AIを活用しながらも生活に自然に溶け込み、データの安全性と自由度を両立させたHTCのビジョンを体現しています。
ヴィヴ・イーグル(VIVE Eagle)の特徴
プライバシー第一の哲学
他のスマートグラスメーカーがデータ収集やプライバシー問題で批判を受けてきた中、HTCは「プライバシー・ファースト」の理念に基づいて「ヴィヴ・イーグル」を設計しました。すべての個人データはAES-256暗号化を用いてデバイス内にローカル保存され、HTCはISO 27001および27701などの国際的なプライバシー認証の取得を進めています。
これは単なるマーケティング用語ではなく、グラスの動作設計に根本的に影響する考え方です。たとえば、「ヴィヴ・イーグル」に複雑な質問をした場合、クラウドAIを利用する際も、個人データやアカウント情報と紐づけることなく匿名で処理されます。
マルチAIプラットフォーム対応
「ヴィヴ・イーグル」の最もユニークな特徴のひとつが、AI統合のアプローチです。ユーザーを特定のAIエコシステムに固定するのではなく、HTCは複数の主要AIプラットフォームと連携できるシステムを構築しました。
内蔵ヴィヴAI(VIVE AI):オフラインでの基本操作(写真撮影、音楽再生、アプリ起動、簡単な音声操作など)を処理します。
クラウドAI統合:複雑な質問の場合、グーグル・ジェミニ(Google Gemini)やオープンAIのチャットGPT(ChatGPT)と連携し、匿名性を保ちながら応答します。
柔軟な知能:このマルチプラットフォーム戦略により、ユーザーは特定企業のエコシステムに縛られることなく、最高レベルのAI機能を利用できます。

技術仕様とパフォーマンス
カメラおよびメディア性能
「ヴィヴ・イーグル」は、HDR対応の1200万画素(3024×4032ピクセル)超広角カメラを搭載しています。動画撮影は1512×2016ピクセル・30FPSで記録可能で、オークリー・メタ(Oakley Meta)の3K動画撮影には及ばないものの、日常用途には十分な性能です。
32GBのローカルストレージを内蔵し、約3,000枚の写真または3分間の動画を50本保存可能です。プライバシー機能として、撮影時にはLEDインジケーターが点灯し、グラスを外すと自動的にカメラが無効化されます。
バッテリー寿命と充電性能
HTCは最大4.5時間の連続音楽再生を実現したと発表しており、レイバン・メタ(Ray-Ban Meta)とほぼ同等、オークリー・メタHSTNの8時間には及ばないものの、10分で50%まで充電可能な急速充電機能を備えています。
デザインと快適性
重量は49グラム未満と非常に軽量で、クラシックなウェイファー風フレームデザインを採用しています。以下の特徴を備えています:
- 調整可能なノーズパッドによるフィット感の向上
- 一日中快適に装着できるカーブしたテンプル形状
- ZEISS社製UV400サンレンズによる光学的透明度とUV保護
- 4つのカラーバリエーション:ベリー、ブラック、コーヒー、グレー

AI機能と実際の活用シーン
音声操作であらゆる機能をコントロール
「ヴィヴ・イーグル」のAIシステムは「Hey VIVE」という音声コマンドに反応し、さまざまな作業をハンズフリーで実行できます。
- 写真や動画の撮影
- 音楽の再生・操作
- スマートフォンアプリの起動
- リマインダーやスケジュールの設定
- レストランのおすすめやローカル情報の取得
翻訳とトラベル機能
特筆すべき機能のひとつが、13言語以上に対応するリアルタイム翻訳機能です。競合製品とは異なり、「ヴィヴ・イーグル」は音声だけでなく、カメラで捉えた文字も翻訳可能。旅行中の標識、メニュー、書類の読解に最適です。
オープンイヤーオーディオ体験
他のスマートグラスと同様、「ヴィヴ・イーグル」は耳を塞がないオープンイヤースピーカーを採用しています。HTCは高音質と周囲の状況認識を両立し、安全性を重視した設計を強調しています。歩行中や自転車走行中でも安心して利用できます。

競合製品との比較:ヴィヴ・イーグルの位置づけ
機能 | HTC ヴィヴ・イーグル | メタ・レイバン(Meta Ray-Ban) | メタ・オークリーHSTN(Meta Oakley HSTN) |
---|---|---|---|
発売日 | 2025年9月1日(台湾) | 発売中 | 2025年7月 |
価格 | 約520米ドル | 299〜329米ドル | 399〜499米ドル |
カメラ | 1200万画素 超広角・HDR対応 | 1200万画素 超広角 | 1200万画素 超広角 |
動画品質 | 1512×2016(30fps) | 1080p | 3K Ultra HD |
バッテリー寿命 | 音楽再生 約4.5時間 | 通常使用 約4時間 | 通常使用 約8時間 |
ストレージ | 32GB ローカル保存 | クラウドベース | クラウドベース |
AIプラットフォーム | 複数(VIVE AI、Gemini、ChatGPT) | Meta AIのみ | Meta AIのみ |
プライバシー重視度 | 高(ローカル保存+暗号化) | 標準 | 標準 |
重量 | 49g未満 | 同等 | 同等 |
度付きレンズ対応 | 対応(小売パートナー経由) | 対応 | 対応 |
発売戦略と提供地域
台湾優先の展開アプローチ
HTCは、自社の本拠地である台湾でまず「ヴィヴ・イーグル」を発売することを決定し、台湾モバイルおよび光学小売業者「2020EYEhaus」との提携を発表しました。これはスマートグラス市場においてユニークな戦略であり、次のような利点があります。
- 現地ユーザーからの直接フィードバックの収集
- 通信会社および光学小売店とのパートナーシップ検証
- グローバル展開前の市場検証
- 現地の度付きレンズサービスとの統合
現時点では、北米市場での発売日や提供時期についての発表はなく、HTCの担当者によると「米国を含む国際展開の具体的なタイムラインは未定」とのことです。
価格設定と市場でのポジショニング
約520米ドルという価格設定により、「ヴィヴ・イーグル」は現在のスマートグラス市場におけるプレミアムセグメントに位置します。
- より高価: レイバン・メタ(Ray-Ban Meta) — 299〜329米ドル
- より高価: 標準版オークリー・メタ(Oakley Meta) — 約399米ドル
- 同価格帯: 限定版オークリー・メタ — 約499米ドル

スマートグラス市場への影響
HTCのスマートグラス市場への参入は、この分野の成長を裏付けるものであり、競合他社に戦略の再考を迫る動きでもあります。プライバシー重視とマルチAI対応という特徴は、他メーカーがデータ管理やAI統合のあり方を見直すきっかけとなるでしょう。結果として、より革新的な機能や強化されたプライバシー保護を通じて消費者にメリットをもたらします。
「ヴィヴ・イーグル」の高価格帯は、特化機能を備えたプレミアムスマートグラス市場の存在を示しています。これにより、プライバシー技術、AI機能、ビジネス用途などの分野でさらなる革新が促進される可能性があります。競争が激化する中で、各社が差別化を図るための開発スピードは今後さらに加速すると見られます。
台湾市場での成功は、HTCのグローバル展開戦略とスケジュールを左右するでしょう。高い評価を得た場合、各国市場に合わせたローカライズ版や、地域の規制要件に適合したモデルが展開される可能性もあります。
結論:プライバシーを最優先する新たな選択肢
HTCの「ヴィヴ・イーグル」スマートグラスは、既存の市場製品に対する思慮深い代替案と言えます。バッテリー持続時間や動画品質ではオークリー・メタに及ばないものの、他にない特長があります。それは「プライバシー重視」と「マルチAI対応」の柔軟性です。
特定のエコシステムに縛られることなく、自身のデータを保護したいユーザーにとって、「ヴィヴ・イーグル」は理想的な選択肢となるでしょう。プレミアムな価格設定ではありますが、プライバシーを重視するユーザーや海外旅行者にとって、その価値は十分にあると言えます。
今後の課題は、HTCがグローバル展開をどのように実現し、消費者がどこまでプライバシーやAIの柔軟性に価値を見出すかです。より確立されたブランドよりも高価なこのモデルが、市場でどこまで評価されるか注目されます。
スマートグラス市場が進化を続ける中、HTCの参入は多様なアプローチや哲学の余地があることを示しています。「ヴィヴ・イーグル」の成功は、実行力・供給体制・そしてHTCの掲げる「プライバシー・ファースト、マルチAIスマートアイウェア」という理念をどれだけ共有できるユーザーがいるかにかかっています。